walking

デザイン関連書籍を中心にまとめや感想を書きます

エイドリアン・フォーティー『欲望のオブジェ デザインと社会 1750年以後』

欲望のオブジェ

欲望のオブジェ

いつも結局「グッド・デザイン論」で終わってしまう――。商品をひとつの社会的なメディアとして見て、それが世の中で流通し始めるとどうなるかというのが本書の大きなテーマとしてある。ページをめくっていくと、様々な商品に対する生産者の考えはもちろん、消費者の捉え方や彼らがおかれた環境、社会的な観念やトレンドなど、様々な視点から対象の商品の形態はなぜこうなっているのかということを窺い知ることができるようになっている。それは同種のものよりなぜその製品が美しいかの検討ではなく、なぜそのような差異が生まれたかを見い出す内容である。

同時に、現代のデザイナーが、どのようにデザインを捉えるべきなのかという問題提起も含まれている。デザイナーが語る内容のみが形態に影響を与えるとは考えにくいのは当然の事ながら、そのように誤解されがちなのは今も昔も変わらないようだ。デザイナーの才能のみで奇跡的に産まれたかのように語られがちなデザイン論は、本質的なデザインの理解と機能性を損ない、商品の生産目的を見失う可能性がつきまとう。

進歩のイメージ、デザイン、デザイナー

資本主義が根を下ろしたほとんどの社会では、物事の新しさに対して抵抗を示していると筆者は指摘する。近代の産業社会の進歩にとって、デザインの力(偽装したり隠蔽したり、または豹変させたりする力)は、その抵抗を打破するために必要なものだったという。

ジョサイア・ウェッジウッドはイギリスの陶芸家である。彼がすぐれて成功した理由として、製造方法の合理化、マーケティング技術、製品への細心の配慮などが挙げられる。ひとつひとつの生産活動が分離し組織化していく中で、専門デザイナーがどのように登場し、どのように重要視されたのか、ポット製造の現場を例に話が進んでいく。

この話を出発点に、デザインと機械化の関係や、どのようにデザインの差異づけがなされていたのかなど、まずは本書の基本的な考え方が示される。話題は、家庭やオフィスのデザイン、衛生と清潔、電気、家事と省力化、デザインとCI、と展開していくが、ここでおさえておきたいのは、社会状況やその時代に人々が思う観念が製品のデザインに色濃く反映されていることである。当然といえば当然ではあるが、こうして俯瞰して見てみるととても学びがあるものだ。

典型的なデザイン史で取り上げられるデザイナーの名前はほとんど出てこない。その代わりに、その時代の状況を語る文献の引用が豊富に収録されている。

感想

本書は1992年発行の『欲望のオブジェ』の新装版であるが、時代を経ても魅力的な問題提起がなされているのは、それがデザインにとって本質的な命題であるからなのではないかと考える。時代に合った魅力的な製品をいかにして作り出していくか、社会をより良い未来にどうやって導いていくか、当時のデザイナーたちの試行錯誤の痕跡をこうして味わえることはとても嬉しい。新装版のまえがきにあるような、筆者のより洗練された考えをぜひ聞いてみたいと願っている。

関連書籍

増補新装 カラー版 世界デザイン史

増補新装 カラー版 世界デザイン史

  • 作者: 阿部公正,神田昭夫,高見堅志郎,羽原肅郎,向井周太郎,森啓
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2012/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る

デザインの20世紀 (NHKブックス)

デザインの20世紀 (NHKブックス)

戦後日本デザイン史

戦後日本デザイン史